2008年6月18日水曜日

椋22号


椋集より

木の花
         石田郷子

木の花のこぼれて厚き弥生かな
ピーターが春の日傘を挿してきし
田返しに椋鳥八羽ついてゆく
桜桃の花影に道教はりぬ
月山の雪解の水やしぶきけり
我も摘む少し長けたる蕗のたう
女湯に男の子あそべる八重桜
武具飾る躑躅祭のただなかに
バナナ剥く春を惜しみてゐるごとく
みちのくは菜の花明りして遥か



椋アンソロジー   石田郷子選

吹き荒れて大地かたむく柳かな  小椋 螢
階の水より伸びる柳かな  川島 葵
ついと来て二月の牡丹散らしたる  立本美知代
ささやきの届く高さや紅の梅  宇野恭子
芽柳の風の中から万太郎  小川 久
雪やなぎ雨は三日にわたりたる  小林木造
門灯に夜が来てをり沈丁花  せいじ
一面の羽まみれなる春の泥  安藤恭子
揃へたる指の冷たき雛かな  柿崎理恵
春塵をはらひお訪ね申しける  岩崎裕子
ひる近しぽつと開きぬ耳菜草  井上和佳子
たんぽぽにジーンズのすぐたち上がる  柚子谷イネ
麗かにギターケースの置いてあり  亀井千代志
陽炎をはみ出して来し笑顔かな  田野いなご
息荒く花の鞍馬へ詣でけり  柚子
春の夢ひらりひらりと花に逢ふ  近藤あかね
ぺたんこにたたむ袋や花疲れ  小関菜都子
菫草空のビードロ見てをりぬ  加藤 鶫
芽吹く樹々降り出す雨にすぐ匂ふ  谷川つきよ
落椿回して水の流れけり  相羽英治
落椿去来するものなかりけり  西田邦一
葭焼の火屑あらあら降りかかる  あかね雲
ゆれてゐる水となりたる四月かな  遠藤 統
蝌蚪見むと踏み抜きさうな板にかな  Aki
ぐつと口結ぶや蝌蚪を掬はむと  田中遥子
いくすぢも川ある街やつばくらめ  清水冬芽
初蝶にすこし蹤かれる嬉しさよ  高橋白崔
豆の花牧場の馬の吹かれをり  林 のあ
菜の花や胸の奥処に父の空  木の子
春の坂登る鳥語の真下まで  森 日雀
還らぬ日畑に投げつく葱の擬宝  松本フミエ
春暁の大きな門をひらきけり  橋本シゲ子
春の夢動悸ひとつを残しけり  あさぎ
春昼のふたをあければカモミール  海津篤子
それぞれの叫びを聴きて種選び  ともたけりつ子
瓜に爪有り爪に爪無し瓜を蒔く  鈴木かづゑ
病室のアネモネ淡き三分粥  池田幸子
チューリップ花の底まで日が届き  境野大波
まつすぐの雨まつすぐのチューリップ  古谷撫子
この椅子に座るといつも春の雷  和田小麦
二重なる大夕虹やワイン酌む  澤瀉邦安
山若葉言葉貧しく仰ぎけり  高橋 梓
水筒の水に洗ひて野蒜食ぶ  こうだなゑ
春落葉祈りたらざる思ひして  対中いずみ
バナナ剥く春を惜しみてゐるごとく  石田郷子


椋22号は6月5日に発行されました。

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