2008年12月5日金曜日

椋25号


忘れもの
           石田郷子

雀蛤となりけりちゆと鳴いて
手を伸べて野葡萄のまだ淡き色
煙突も見返るものの一つ秋
木犀の香を振りかへり振りかへり
悲しげな犬の貌ゆく蘆の花
秋の日に焦げたる腕をさすりけり
初鴨を見て歳時記の忘れもの
塩振つて飯かがやきぬ十三夜
錦秋の二階のこゑのよく笑ふ
隠れ住むごとくに熟柿食みつくす






椋アンソロジー   石田郷子編

一卓は海のごとしや檸檬置く  柚子谷イネ
はつ秋のコンドル卵抱いてをり  林 のあ
小鳥来る小石は君の宝物  森 日雀
生き甲斐の俳句不出来や日々草  渡辺しきぶ
ぎいと尾長沼杉の空澄みにけり  みかん
醒が井の藻のふつさりと野分あと  対中いずみ
ブルーベリー入れし袋の曇りかな  山田絵利子
黒ぶだう食む唇のまんまるき  北川比沙子
すれ違ふもの秋風の中の蝶  セキレイ
秋蝶の蛇の目の翅をひらきけり  境野大波
をんなふと背中を掻けり秋の蝶  小林木造
飛行機のごとき影置く鬼蜻蜒  土門きくゑ
ひかりから眼を庇ふなり白芙蓉  田中美雨
花芙蓉うたた寝したりめづらしく  岡村潤一
蓼の花風を大きく入れにけり  小林すみれ
荻の声一人になれば溺れけり  海津篤子
曼珠沙華鋼のごとき蕊開く  鴨志田百代
楢の実の青きを投げてゆきしかな  亀井千代志
残しおく明日の色の烏瓜   田野いなご
ゆらゆらと雨脚見ゆる烏瓜  小椋 螢
罅割れの土黒々と稲の花  安藤恭子
車椅子稲の穂波に迎へられ  近藤あかね
絵馬札の犇めく田水落しけり  こうだなゑ
秋の日の坂を照らして静かなり  井上和佳子
舟べりの水なみなみと昼の虫  福田うずら
父親の胸板厚き鉦叩  井関雅吉
きりぎりす啼きつ啼きつつ啼きぬれし  石田京愛
落鮎の旅の終りを飾りたし  高橋よし
大芭蕉生きてゐしかば対ひ合ふ  高橋 梓
音もなく芭蕉の破れはじめけり  宇野恭子
歌よみの吾は端くれ破芭蕉  立本美知代
湯上りの妻あたらしや後の月  小川 久
燈火親し長寿祝の礼を書く  松本フミエ
秋沒日わが影猿にさも似たり  Aki
石ひとつ祀るゆたかさ秋茜  橋本シゲ子
柿紅葉ふと散りて止む日差しかな  川島 葵
行く秋の朝の灯を点けにけり  小関菜都子
落葉踏む昨日の音の中へ中へ  柿崎理恵
隠れ住むごとくに熟柿食みつくす  石田郷子


「椋」25号は12月5日に発行されました。


この号では、句集大特集を組みました。

どうぞご高覧下さい。






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