椋集より
ゆふぐれ
石田郷子
冬に入る事務室にちと声かけて
よく晴れて葡萄の枯れのはじまりぬ
炉辺ありて遠き日向のありにけり
しづかなる二人が坐り冬の芝
町中に水の流るる冬至かな
飛騨の山もうもうと雪来るらしき
ゆふぐれや落葉の中に水鳴つて
一本の響いてゐたる冬柏
見つめれば見えてきさうや夕焚火
はるかなる落葉のなかに立ち上り
椋アンソロジー 石田郷子編
好きなもの買つて秋日を戻りけり 高橋 梓
どの葉にも水の玉おく秋の空 柿崎理恵
坂鳥の散る材木の香りかな 川島 葵
吊し柿隣に洗ひたてのシャツ 林 のあ
足もとの雀の貌や七五三 こうだなゑ
いま落ちしすずかけの葉の脈打ちぬ 田中美雨
落葉踏むけふの心を確かめて 宇野恭子
欄干に来て静かなる冬の鵙 小林木造
寒禽を見つめ見つめて見つめけり 石田京愛
真向かひて化粧のかほの冬鴎 岩崎裕子
薔薇の香をかぐといふこと冬帽子 対中いずみ
黄昏は音たててくる冬薔薇 海津篤子
マフラーの冷え切つてゐる告解所 安藤恭子
討入の日の裏口の藪に風 境野大波
マフラーをぐるぐる巻きにして挑む 小林すみれ
魚影のさらりとゆける冬の川 かすみ
綿虫の夕焼よりもつめたくて 田野いなご
色町の灯りがひとつ冬の川 井関雅吉
熊笹に時雨通つてゆきにけり 井上和佳子
箒草しぐれ雫のひとつづつ 橋本シゲ子
柿落葉拾へば水のこぼれけり 柚子谷イネ
雪晴や砂の沈みし洗ひ桶 小椋 螢
一扇の富士を頂く冬の梅 高橋志げ子
炭ころがしながら山の風のこと 亀井千代志
屏風してきのふとちがふ波の音 藤井紀子
父の椅子見つめてゐたる十二月 福田うずら
おでん屋の風はさみしき仲間なり 木の子
おでん煮るふるさとの風思ひつつ 小関菜都子
路地住みの日々の長さや千鳥鳴く 今田宗男
翻り翻り冬青空を 立本美知代
もちつきを終へし広場の竹箒 田中遥子
数へ日やメモに慈姑と水仙と 北川比沙子
雪晴の思ひ立つとき力あり 森本和子
いぶかしき不意の泪やエリカ咲く Aki
見つめれば見えてきさうや夕焚火 石田郷子
☆椋20号は2月5日に発行されました。
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